布団あります まくらことば活動日記

歌ものロック/ポップスバンド、まくらことばのブログです。

The City特集

佐藤「日曜の夜、みなさんいかがおすごしでしょうか。今宵、『布団あります』へようこそ」

サトー「ちょっとちょっと、何なの勝手に。そういう古めの入りするんだったら、城達也みたいに素敵な感じがほしいな。そんでなんか話があるわけ?」

佐「いやね、やっぱり改めてあの話をしておくべきだと思って。荒井注カラオケボックスで……」

サ「や、それはもうあるある界のド定番でいまさらここで我々が話すこともないでしょう! なんかこうもうちょっとさ、ダンプ松本あたりで蔵出しな感じのエピソードとかないわけ?」

佐「アナーキーのマリが元夫人であるパーソンズのジルを刺したとかその辺は? 手垢つきまくりかもしれないけど、若い人には衝撃なんじゃないかな」

サ「いやもう登場人物全員が全然ネタフリ利いてないでしょ、通用せんわ。そんなこと話しに来たんじゃないでしょ今日は!」

佐「はい、単刀直入にいきます。みなさん、The Cityを聴きましょう」

サ「単刀がずぶっと。えー、The Cityはあのキャロル・キングが60年代の終わりごろに組んでたバンドで、ちょうど作曲家時代とシンガーソングライター時代の中間にあたる頃のキャリアですね。作品としてはアルバム『夢語り』1枚のみを発表して解散した」

佐「キング以外のメンバーはギターのダニー・コーチマーとベースのチャールズ・ラーキーのトリオ編成。ちなみにラーキーはキングの2番目の夫ですな」

サ「The City解散後、バンドはよりアメリカン・ルーツ色を濃くしたジョー・ママに発展するわけだけど、ジョー・ママもアメリカンロック好きならmustのバンドだね。そんでキングはソロとして大成功、歴史的名盤『つづれおり』をモノにするわけだ」

佐「なんだけどThe Cityの『夢語り』は、場合によってはキングのソロよりも評価が高いこともあるくらいの名盤で、長い間CD化されなかったこともあって幻の名盤として名高い一枚だったんだよね」

サ「こういうエピソードが独り歩きするとなんかコレクター物件みたいに思えてくるんだけど、いやいや全然、『夢語り』は超王道の名盤だよね。マジで20世紀の100枚に入っていてもおかしくないとさえ思う」

佐「ま、それはちょっと極端だけど、アメリカンロックという枠組みの中でならありうる話だね。そんで屈指のポピュラー作曲家であるキャロル・キングが曲を書いてるんだから曲がいいのは当然として、君はこのアルバムの何がそんなに素晴らしいと言っているの?」

サ「うん、それは1にも2にもバンドアンサンブルの素晴らしさなのね。ほいでその話はあとでじっくりするので、先に曲の良さについて一言。確かに曲がいいってのはそうなんだけど、ヒットメーカーのキングという側面はここでは封印されてることに注目したい。『夢語り』の曲はどれも構成やメロディがよく練られた名作ばかりだが、はっきり言ってチャートの上位を狙えるようなキャッチーさだったりフックはまるでない。特に2曲目『I Wasn't Born To Follow』なんて読経みたいなメロディラインだよね」

佐「なんだけど、やっぱりよく練られてるから繰り返し聴いていくと体に染みてくるというか、脳にダイレクトに浸透してくるようなパワーがある。はぴいえんどの『風街ろまん』もそんな感じだと思うんだけどどうだろう」

サ「そうね。かなり時代は下るけど、ハイラマズの『サンタバーバラ』なんかもそんな感じかな。一聴して地味だけどその分長く付き合える曲がいっぱいあるよね。滋味が深いっていうか」

佐「さてじゃあこのアルバムの神髄であるアンサンブルについてひも解いてみようかね。曲を聴きながらということで、アルバム4曲目『Paradise Alley』」


The City (Carole King): Paradise Alley - YouTube

サ「まずこれが3分ちょっとのコンパクトな曲だとは思えない、すんごい展開が豊かだね。それから楽器はホントにシンプルだけど、なんでこんなに充実してるんだろうか。フレーズ自体もすごくシンプルだし、とにかくセンスの塊みたいな演奏。改めてすげーな」

佐「特に左のギターの音、あれなんて君の理想のサウンドじゃない?」

サ「うん、ストラトテレキャスかわかんないけど、とにかくシングルコイルの一番いい音だと思うねこれ。なんでこの曲こんなに気持ちいいんだろうと考えたんだけど、やっぱりこのリズムギターとキングのヴォーカルが生み出すタイム感がキモなんじゃないかと思った」

佐「うん、すごく味があるのに正確なギターと、ぎりぎりまでレイトしたヴォーカルが独特のグルーヴを作り出してるね。とにかくすべてのパートがいい音だし、そのアンサンブルが当然のごとく素晴らしい。バンドの音ってこれが理想だよねまじで」

サ「じゃあこれまた魔法の塊みたいな曲を。アルバム7曲目『Why Are You Leaving』」


The City (Carole King): Why are you leaving - YouTube

佐「これも3分半か、信じられんな。なんだけどこれはさっきの曲と違い、ベースにキングのピアノ弾き語りがあって、それにバンドサウンドを重ねたって感じがするね、特に前半部分」

サ「そうね。まずコード感をピアノとアコギ、曲の骨格をベースがしっかりと支える基礎構造。その上にキングの饒舌なヴォーカルとオブリのギターなんかが重なる。特に印象的なのが自由奔放なパーカッションで、パーカスがこの曲のスリリングな感じを決定づけている気がするね」

佐「これコードは何使っているんだろうな、すごく緊張感があるよね。それでこれはアルバム全曲に言えるんだけど、程よい都会感と、それこそアメリカのロードムービーを想起させるようなカントリー感が同居しているよね」

サ「あのさ、これからちょっと下って1972年の映画なんだけど、ジョン・ブアマンの『脱出』っていうアドベンチャー映画があるじゃん、僕はあれをなんか思い出したんだよね、画的に」

佐「うーん、あの映画は『デュエリング・バンジョー』の印象が強すぎてほかの音楽は想像しにくいんだけど、まぁ言わんとすることはわかるよ。『都会と自然』みたいな、ね」

サ「……賛同が得られなかったので最後の曲いきます、アルバム1曲目『Snow Queen』」


The City - Snow Queen - YouTube

佐「はい、ロジャニコのカヴァーでおなじみの名曲ですね。この曲はなんといっても、基本的なリズムが……」

サ「ワルツなんだよね! このワルツのタイム感というのを唯一のルールとして、各楽器がかなり自由に演奏しているのが気持ちいい。特にドラム、これって誰が叩いてるんだっけ?」

佐「それが調べたけどわかんないんだ。ジム・ケルトナーとかその辺かな、わかんないけどとにかくロールがめっちゃ気持ちいいよね」

サ「これ歌詞もなんだか幻想的でね。雪の女王、っていっても今年流行ったアレじゃないけど(笑)、女王にまつわる物語調の。このきれいなメロディにすごくあっててね、さすが信頼のゴフィン=キング謹製という出来ですな」

佐「2:30すぎたあたりのちょっとテンポ落としてるように聴こえる個所とかさ、ジェットコースターみたいな爽快感があるよね。とにかく全員がめちゃくちゃリズム感良かったんだと思うよこのバンド」

サ「ほんとにねぇ。そんで音は基本全部クリーンだしさ、オーバーダビングも最小限だし、なのになんでここまで豊潤なのかといえば、堂々巡りなんだけどアンサンブル。アンサンブルってなんですかってなると僕はうまく説明できないんだけど、いいアンサンブルってのはわかるんだよ、とにかく『夢語り』を聴けよ!っていうね」

佐「そう、ほんとにアンサンブルの教科書だなこれは。楽器と楽器の絡み合いがマジックを生む、バンドで音楽を演奏するときの魔法がこの1枚には凝縮されてる」

サ「だからさ、けっこう『つづれおり』は聴いてるよ、っていう人は多いと思うんだ。だったらさ、もう一歩分け入ってぜひこの『夢語り』を聴いてほしいなと。決してマニア物件じゃなくて『つづれおり』にも匹敵する名盤だからねこれは」

佐「むしろバンドサウンドという点ではこっちが上かも。あとこれが好きになったら、奥深いアメリカンロックの世界の扉を開けることにもなると思うんだ。やっぱり日本ではさ、イギリスから入る人が圧倒的に多いと思うから」

サ「たとえばオルタナ以降でも、アメリカにはケイクとかウイルコみたいなバンドが出てくるじゃん。最近だとドクター・ドッグとかさ、あのへんをより楽しむためにも、ちょっとアメリカンロックのハシカみたいなのに一度かかっておくといいよね」

佐「その感染のきっかけとして『夢語り』はホントいい。ポップス系の人もロック系の人も、SSWとしてのキングが好きな人も、みんな楽しめると思うね」

サ「……なんかオチなしでまとめに入ったけどいいの?」

佐「ま、いいんじゃない? ……もう眠いし」

サ「あ、中の人は超朝型でした。みなさまおやすみなさーい」