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布団あります まくらことば活動日記

歌ものロック/ポップスバンド、まくらことばのブログです。

小津安二郎の話

佐藤「なんだって、最近は小津安二郎ブームが再来してるんだって?」

サトー「そうなんです。いいんですよ」

佐「そうかい。いいのかい」

サ「いまのところ、戦後のいわゆる“紀子三部作”と『秋日和』『秋刀魚の味』を観たんですが、どれもいいんです」

佐「そう。いいのかい。……そそそろ小津調やめにしようか?」

サ「すごいよね、終始こんな感じで2時間だもんね。いやー、改めて小津、ホント面白いわ。若い頃はどっかお勉強で無理強いして観てたのが、今は娯楽作品というか単純に面白くてさ」

佐「そうだよね、2時間があっという間に過ぎちゃう。なんであんなに面白いんだろうね、基本何もないんだけど」

サ「ああそれ、小津映画についてよく言われる『何も起こらない』って物言いね、実はそんなことなくて。確かに話の大半が娘を嫁にやるって話題で非日常的なことは何も起きないんだけど、結構起伏があるんだなって感じた」

佐「なんていうんだろう、話の段階が別のゾーンに入るときとか、物語を貫く重要な伏線が明かされるとか、そういうシーンって必ず、効果的な脇役の動きがあるんだよね」

サ「杉村春子! もうね、杉村春子観たさに小津映画観てる部分がかなり大きい。なんだろうね、あの圧倒的なふてぶてしさと世間ずれした感じ。基本的に小津作品ってどろどろした人間模様とか修羅場とか全然なくて淡々としてるし、杉村春子もその作法に則ってはいるんだけど、なんかもう説得力がけた違いだよね」

佐「基本的に小津作品ってさ、いい人しか出てこないじゃん。特に笠智衆原節子が割り振られる役なんて、こんないい人なかなかいないでしょっていう善人だよね」

サ「そんで脇を固めるのがちょっと癖のある人たちで、その人たちが暗躍することによって主人公の輝きが一層増してくるという構図。特に杉村春子中村伸郎、北竜二、佐分利信あたりの存在感がすごい」

佐「中村伸郎のね、インテリ風なんだけど不良な感じとかたまらんよね。晩年の作品にみられる“おじさん三人衆”の面白さってさ、もうおれずっとにやにやが止まらないのよ。『秋刀魚の味』の笠・中村・北というトリオもいいんだけど、やっぱり『秋日和』の佐分利・中村・北って最強だよね」

サ「とくに佐分利信のね、ひくーい声で『水、それとコーヒーだ』とか『急いてはいかん』とか、ああ、おじさんはこうでなくちゃと思うよね」

佐「あくまで脇役だし、年相応の分別とか価値観の枠内にとどまっているんだけど、おじさん・おばさんの輝きを描かせたら、ちょっと小津の右に出るものはいないと思う」

サ「昨今の“いきいき中高年”的な、もっと言えば美魔女的なさ、どんだけ若く見えるかっていう中高年のとらえ方じゃなくて、相応の年功を積んだ者にしか出せない滋味みたいなものがありながら、茶目っ気というか悪戯心があってね。そんで連中、全然仕事してないんだ(笑)。なんか重役室で書類眺めてて、来客があったらすぐに『昼、どうだ』とか言って『若松』に行っちゃう」

佐「『若松』の女将、高橋とよが常連役なんだけど、これもまた効いてるんだよなぁ。悪いおじさんたちの可愛さを引き立たせる上で高橋とよの存在はでかい」

サ「さて、最近観たその5本のなかでは何が一番面白かった?」

佐「うーん、やっぱり世間で言われてる小津評と同じで、代表作というか“この一本”というのであれば『東京物語』かな。全体的に悲哀が漂ってて重い作品だし、“妙齢の娘を嫁にやる”という黄金律からは外れるんだけど、笠智衆原節子という小津映画の2大スターが一番輝いているのが『東京物語』だと思う」

サ「同意。杉村春子もキレッキレだしね、小津組の凄みを味わうならあれかな。同様に“老いと孤独”ということであれば、『麦秋』も捨てがたいよね」

佐「ああ、『麦秋』もいいなぁ! 『麦秋』は『東京物語』と共通する設定も多いんだけど、また違った味わいがあるよね。あの最後に家族写真を撮る場面とかさ、ちょっとヤバいよね、もうあの画だけで並の映画一本分の感慨を味わえる」

サ「『麦秋』が1951年。『東京物語』が1953年。つまり2年しか経ってないんだけど、笠智衆は『麦秋』では紀子の兄、『東京物語』では義理だけど父役。この2本を連続してみると、笠智衆の“老け芸”がいかにすごいかってのがわかる」

佐「なぁ、笠智衆って『東京物語』のときはまだ49歳っていうからびっくりだよね。その若さで東山千栄子と夫婦役やりきってるんだから」

サ「面白いってことで言えば、僕はやっぱり『秋日和』を推したい。前述の悪いおじさん3人組も痛快なんだけど、『秋日和』は岡田茉莉子の快刀乱麻を断つような活躍ぶりが素晴らしい。寿司屋の娘でちゃきちゃきってこともあるんだけど、丸の内のOLでもあり現代っ子っぷりがいいんだよね。佐分利信と手を組んで北竜二を担ぎ上げるくだりとか、本当に面白い」

佐「『秋日和』にはさ、ここぞという場面のポイントゲッターである杉村春子が出演しないんだよ。笠智衆も脇役でさ、そういう意味ではかなり冒険作かもしれないけど、岡田茉莉子が見事に乗り切ったよね」

サ「でも『秋日和』をより深く楽しむためにはさ、前振りとして『晩春』を観ておくことが必要になる。『秋日和』は『晩春』の変奏曲とでもいうべき作品だからね」

佐「『晩春』は戦後小津映画の記念碑的な作品で、“小津風”と言われるもの――ローアングルであったり小津組の俳優陣――がほぼこれで確立されたもんね。そういう意味では『晩春』を入門の一本にしてもいいかもしれない」

サ「あと『秋刀魚の味』はね、小津の遺作なんだけど、これまた大傑作で。岩下志麻の輝きは言わずもがななんだが、『秋刀魚の味』はまた脇が素晴らしいんだよな。ヒョウタンの娘でラーメン屋やってる杉村春子の悲哀とか、兵隊時代の部下でトリスバーで笠智衆と飲む加東大介とか、小津は60歳で急に亡くなるわけだけど、遺作として『秋刀魚の味』が残ったのなら、まぁいいじゃないかと思う」

佐「……取り留めもなく話してたらもう時間がなくなっちゃたな。この話はまた機会を改めてやろうよ」

サ「そうね。引き続き観てね」