「天国への階段」のイントロにまつわる話
あようございます、まくらことばのサトーです。
冷たい雨が降る朝です。
世間では嫌なニュースが多く飛び交っていますが、どれもこれも犯人は男……。
男ってどうしてこうなんだろう、社会的存在であることを逸脱するまでに肥大した自意識と欲望、自分の中にもそんなものがあると思うと(や、確実に、ある)、本当にこの性別であることが度し難く感じられます。
さて、無事曲も揃い、ファーストフルアルバム『枕じゃなくて招待状』制作に向けてひたすら手を動かす季節に突入した我々まくらことばですが、ここから完パケまで続く修羅の道にあたり、ちょっと自戒しておこうかなと思うんです。
いやね、話は過去にさかのぼるんですが、しばしば思い出すエピソードがありまして。
私が最初に始めた楽器、実はベースでありまして、ポール・マッカートニーに憧れていたことと、一緒にバンドをやるであろうYくんがすでにギターを持っていたからという理由で、高校1年の夏休みに手袋工場でアルバイトをしてフェンダージャパンのジャズベースを、アンプやらシールドやらがパッケージされた入門用セットとともに購入したのでした。
その後、Yくんとのバンドはよくある「やろうぜ」の掛け声倒れに終わってしまい、一人で楽器をいじることになるのですが、ベースってやつはバンドもないし明確なコピー対象もない人間には全く面白みの感じられない楽器で。
そこでそのベースセットを友達に売って、そのお金でギターに買い替えたのが高校2年くらいでしょうか*1。
そんときに買ったのがフェルナンデス(バーニー)のレスポールモデルで、これはたぶんジミー・ペイジへの憧れからサンバーストのレスポールを選んだんでしょう。
そんでまぁ「ブラックドッグ」とか「胸いっぱいの愛を」とかのリフを練習していたのですが、当時四国の大学に行っていた兄が帰省した際、私の部屋からわざとらしく聞こえて来るZEPのリフに、「お、ギター始めたんか」みたいな感じで反応したんですね。
兄も高校時代、クラスメイトですごくギターが巧い人がいてその人に触発されたらしく、家にあったフォークギターを少しいじっていたようですが、コードひとつ覚えるでもなくやめてしまっていて、弟がギター、しかもエレキを練習し始めたのに驚きつつ、「まぁどうせこいつもすぐ飽きるじゃろ」くらいに思っていたのでしょう。
その後ザ・スミスにハマった私は、ジョニー・マーのような透明感のあるギターが弾きたいと思うようになり、いかにもハードロックの象徴である虎目のレスポールが「これ違うんじゃないか」と疎ましくなり*2、あろうことか友達にあげちゃったんですね。
そんな感じでろくすっぽ弾けるようにならないうちに私の手元からギターはなくなってしまったのですが、浪人の頃かな、親父がどっかのスナックで酔った勢いでか白いフォークギターをもらってきたんです。
今思えばそのギター、ネックが反っててコンディション最悪の物件でしたが、ギターをもう一回ちゃんとやってみたいと思っていたタイミングでしたし、浪人というエアポケットのような時代で暇を持て余していたこともあり、今度は比較的真面目に練習するようになりました。
ま、練習といっても、福山のスガナミ楽器で買ってきた歌本をめくり、歌いながらコードフォームを覚えていく程度のことでしたが、母親の影響で70年代フォークおよび歌謡曲をけっこう知っていた私は、それなりに楽しくギターを覚えていったのでした。
ここにきて初めて、“一応ギターが弾ける”体裁だけは整ったわけです。
そんな感じでギターを弾いていたある日、例によって帰省中の兄が「おっ、思ったより続いてるし、それなりになってきたのう」くらいに思ったのでしょうか、私の部屋にやってきて、「『天国への階段』は弾けるか?」と私に問うたのです。
私は当時、あの有名なイントロをまったく弾くことができなかったのですが、弾いてみたいと思っていただけにどこか痛いところを突かれたような気分になったのでしょう、とっさにこう答えました。
「あれはアコースティックギターで、おれの持っとるのはフォークギターじゃけえ弾けん」
……当時、アコースティックギターとフォークギターが同一のものであることぐらい当然知っていましたが、兄貴にはわからんじゃろうくらいの気持ちでとっさに口を突いて出たのがその台詞です。
まったく顔から火が出るくらいに恥ずかしい言い訳ですが、兄は「ふうん」くらいの反応だったように思います。
なんかね、このやりとりを折に触れて思い出すんですよね。
いやおれホントにダサかったな、ああいうのはもうあれで最後にしようって。
何がダサいって、まぁアコギとフォークギターは違うとした内容そのものもそうなんだけど、道具とか環境要因でもって自分ができない理由をまず言っちゃう、それがダサいって思うんです。
上記のエピソードみたく、明らかに「お前何言ってんの」的な荒唐無稽じゃなくても、まず最初に「できない理由」を自分の外側に探し求める自分がどっかにいる、残念ながら今も。
これ仕事の場面でもよく言われる話ですが、とりわけバンド活動みたいな場面では、恐ろしいくらいカジュアルに口を突いて出ることだし、陥りやすい罠だと思うんです。
いや実際、機材がないから、整わないからできないことってすごくたくさんあるんですよ、でもそれを言い訳にやらないってのはすごくかっこ悪い*3。
だってさ、バンドなんて衣食住に関わることじゃないし、べつにおれらがバンドやんなくても誰も困らないからね、できない理由をまず探す、みたいになったらもうその時点ですべてが止まっちゃうんですよ。
これね、別にメンバーに対するメタメッセージとか遠回しの苦言とかそんなんじゃなくて*4、ホントに「さぁ本格的に手を動かさなきゃ」と思ったときに真っ先に思い出したのが、あの兄貴との会話だった、って話。
何より「できない理由」の誘惑、私自身がまだまだ克服してるって言えないからね。