思えば遠くへ来たもんだ
たぶんこの話、ブログでもリアルでも何回もしてると思うんですけど。
あれはまだ日本がイケイケだった時代ですよ、中森明菜が全盛期で、「DESIRE」って曲が大ヒットしてたんですよね。
奇抜な衣装と振付、印象深い楽曲とかなり意欲的な作品で、たしか「ザ・ベストテン」で何週も連続1位に輝いてた。
そんで中学生だったウチの兄が当時、「『デザイアー』ええわ、好きじゃ」みたいなことを私に話してて、「おれが今ベストテンにハガキ送るんじゃったら『デザイアー』に入れるわ」みたいなことも言ってたんです。
それを傍で聞いていた母ちゃんがある日、「ヨシヒト、デザイアーのテープ売りょーたで!」と、スーパーの中にあるレコード屋でカセットテープを買ってきたんです。
「今流行りょーる曲なのに、500円で売っとったわ」
「ホンマに!? すげーわ、おれこれ欲しかったんじゃあ!」
喜び勇んだ兄がサンヨーの黒くてでっかいラジカセにテープを突っ込んで再生すると、♪ゲラッ、ゲラッ、ゲラッ……という例のフレーズではなく、なんかシンセのイントロに続いて尋常ないハスキーヴォイスが流れてきたんですね。
びっくりした兄貴はカセットのライナーを確かめると、怒りと落胆にまみれてこう叫んだんですよ。
「母ちゃんこれ明菜じゃのうてもんたよしのりじゃ、もんたの『デザイアー』じゃが!」
……これ、長年にわたって私の鉄板というか絶対にウケる話で、折に触れて友達に披露してきたんですが、つい先日久しぶりに、クボチュウ氏にこの話をしたんですよ。
そしたらやっぱりウケたんだけど、「なんかそれ、せつない話ですね」って。
確かに自分でも、昔はただのおもろい話だったのが今は、おもろ:せつな=3:7くらいの感じがした。
ああ、歳をとるってこういうことなんだな、と。