布団あります まくらことば活動日記

歌ものロック/ポップスバンド、まくらことばのブログです。

昭和の絵師を偲ぶ

はじめて上村一夫作品に触れたのは、やっぱり『同棲時代』だったと思います。

若い二人が貧しさに耐え、支え合いながら愛を育む……という作品ではまったくなく、駆け出しのイラストレーター次郎と小さな広告会社に勤める今日子の、何ものにも縛られないがゆえに確かなことが何もない日々の生活を、きわめて抒情的な絵と言葉でつづった作品でした。

この作品を読んで私は、とにかく絵に惹かれました。

ジャンプ全盛時代に育った私たちの世代には、まだ大人向け漫画には「劇画」なるものが存在し、「このマンガは劇画タッチだね」みたいな言い方もありました。

上村一夫の絵も確かに劇画タッチなのですが、その作品はそれまでに知っていたどの絵とも違う洗練を感じさせました。

とりわけ女性キャラクターの妖艶さは際立っていて、その表情と体のラインは美術作品として成立するくらいの美しさを感じさせます。

とにかく絵が気に入って、それから上村作品を読み進めてきましたが、次第に作品全体に魅了されるようになり今日に至るという感じです。

とはいえ、「好きな漫画家は?」と訊かれれば、手塚治虫つげ義春秋本治といった名前がまず挙がります。

上村一夫はといえば、やはり私にとっては漫画家である以前に画家なのだろうと思います。

 

今日1月11日は上村一夫の命日で、ちょうど30年前の1986年、45歳の若さで亡くなりました。

現在、文京区の弥生美術館では「上村一夫×美女解体新書展」を開催しておりまして、命日にあたる今日、娘さんの上村汀さんのトークイベントなどもあるということで、行ってきた次第です。

会場は大盛況、入りきらないくらいのお客さんが来ていましたが、思ったよりご高齢の方が多いのが印象的でした。

命日ということで、実際に故人と親交のあった方などもいらっしゃったのかもしれません。

 

展示はとにかく盛りだくさんで、今までさんざん読んできた名作の原画がこれでもかと用意されており、入ってすぐ、私は胸にこみあげてくるものがありました。

その短い生涯の中で驚異的な量の仕事を残した上村一夫ですが、ほんの一部を選んで展示しているといっても、何か圧倒されるものがあったのです。

とくに私が印象的だったのが、漫画家として以外の仕事で、イラストレーター時代の広告作品や、レコードジャケットなどに釘づけになりました。

てかこれ、ポスターにするなりして欲しいです!

 

上村一夫の描く女性は、とにかく情が深いのです。

それが愛情なのか憎悪なのかはわかりませんが、我々男には想像もできないくらい深い感情を内包できる女性という存在への畏怖が、私には感じられます。

男はロマンチストで女は現実的、よく言われるこのステレオタイプは、日常において確かにその通りだと思う場面が多いのですが、本当に気持ちが入ったときの女性の情の深さは、男には絶対に到達できない領域にあるように思います。

上村一夫の描く女性は、そういった男には決して入ることのできない領域で深く愛し、哀しみ、時に怨んでいるようです。

女たらしとかそういう意味じゃなく、この人は本当に女性が好きだったんだろう、そしてそれは、表現者として不可欠にして最高の資質なのだろうと思います。

 

この展覧会、3月27日まで開催されており、3月19日にはなんと曽我部恵一さんのミニライブもあるということで、上野とか谷根千に行かれた際はぜひ立ち寄られることをおすすめします。