布団あります まくらことば活動日記

歌ものロック/ポップスバンド、まくらことばのブログです。

またまた街の話

おはようございます、サトー@まくらことばです。

ハンドクリームが欠かせない季節がやってきました。

私は元来アトリックス派だったのですが、昨シーズンは単に安かったのでニベアにしてみたものの、やっぱり今年はさらっとした質感が好きなアトリックスでいこうと思っております。

 

さて、一人で盛り上がっておる街の話ですが、しつこく続けます。

皆さんは池袋にどのような印象をお持ちでしょうか。

新宿、渋谷と並ぶ山手線の巨大ターミナル駅であり、主に埼玉方面の玄関口として機能的には重要な駅および街でありますが、特に沿線住民でもない場合はあまり用がないというか、はっきり言ってどうでもいい街、という方が多いかと思います。

私も先に述べた散歩時代、池袋はそれほど印象の強い街ではなく、むしろ周辺の雑司ヶ谷であったり、お隣の目白のほうが散歩コースとしてはしっくりきていました。

街を多く描いた漫画家であるつげ義春には「池袋百点会」という作品がありますが、この話も池袋そのものを扱ったものとは言いにくく、つげ義春の拠点範囲を考えるとあの街にはけっこう出入りしていると思うのですが、あまり印象を残さなかったのかもしれません。

 

このようにとりたてて印象のなかった池袋の街ですが、私は25歳の時、西口にあった書店でアルバイトすることになり、1年ちょっとの間、この街に通うことになりました。

池袋は時に「駅袋」と言われることもあるそうで、駅に直結した西武と東武の2つのデパートだけで用が足りてしまうことも多く、「駅から出なくてもいい街」などと揶揄されることがあります。

実際、駅から出て広がる池袋の街は、東口は新宿を少し小さくしただけ、西口は車が多いだけで特に何もない、そんなファーストインプレッションでした。

私のバイト先は西口でしたので、そもそも印象の薄い池袋でもさらにどうでもいい街だったわけで、東京の街が好きな自分にとっても、最初は通うのが億劫だなぁと思うくらいでした。

 

さてこのバイト先の書店ですが、従業員の多くは同年代、おそらく20代中盤から後半の人がほとんどだったと思います。

ということで皆さん結構仲が良く、プライベートでも一緒に遊ぶような関係が成り立っているようで、休憩室はいつも学生時代のような雰囲気で充たされていました。

人生の底辺期にいた当時の私がそのような雰囲気に入っていけるはずもなく、仕事もそれなりにツラい内容でしたが、最大の苦痛は休憩時間をどう過ごすかになっていました。

加えて当時は全くお金がなく、米とおかず一品くらいをタッパに詰め込んだ不気味な弁当持参で通っていたため、昼食は基本休憩室で摂らざるを得ず、なるべくその場にいたくなかった私は、誰よりも早く休憩に入り5分で完食して外に出る、そのような毎日を送っていました。*1

 

休憩時間に行き場所がない――このことが私を、池袋の街に向かわせました。

最初は好きでもない街だし、どうやって時間をつぶそうかという手持無沙汰の散歩だったのですが、次第に私はこの街の魅力を発見することになるのです。

まず私が感動したのが、立教大学周辺の街並みでした。

立教大学のキャンパスは相当に歴史のある、かつ美しい建物ですが、私はむしろそこに隣接する旧江戸川乱歩邸に魅かれるようになりました。

いかにもな雰囲気の古色蒼然とした洋館はまさに乱歩の作品世界そのもの、ここで『人間椅子』とか書いてたのかぁと思うと、「池袋やるなぁ」と気分が高揚してきたのです。

 

さらに私は散歩の範囲を広げ、45分間の休憩を使って行けるとこまで足を伸ばすようになったのですが、そんな中で発見したのが自由学園明日館です。

明日館のことはそれまでに『東京人』なんかで写真を見たことはあったのですが、まさか自分のバイト先から歩いて行ける範囲にあるとは思っていなかったので、偶然発見したときは本当にびっくりしました。

西口五差路を東京芸術劇場のほうに進むと、ぱたりと太い道が消える不思議な場所があるのですが、その先の住宅街の中に、自由学園明日館は忽然と姿を現します。

この建物は言わずと知れた巨匠フランク・ロイド・ライトの傑作で、芝生の庭園に水平基調で配置されたシンメトリーの講堂は国の重要文化財にも指定されています。

私の散歩の大きな楽しみの一つに名建築を見る、というのがあるのですが、偶然発見した明日館はまさに、私の散歩人生で最大の収穫でした。

この明日館の空気感というか空間の気持ちよさは本当に実際行ってみないとわからないのですが、とにかく圧倒的で、池袋にこんな場所があったのかと心底驚きました。

当時の私はすべての目標を失い惰性で過ごすだけの日々を送っており、いつも気分は沈みがちでささくれだっていたのですが、明日館の前に立っていると、不思議と気分が晴れてくるのです。

ライトの建築は、建物そのものの素晴らしさは言うまでもなく、その配置やロケーションも含めた空間設計に真骨頂があると思うのですが、ここに立つと、東京の真ん中にいてもアメリカの大草原にいるような無限の広がりが感じられ、自分の抱えている閉塞感みたいなものが消え去っていくのでした。

 

こうして私は池袋の魅力を知るようになり、特に印象もなくむしろ嫌いだったこの街のことが次第に好きになっていきました。

今池袋に行くことがあるとすれば東口の楽器屋を覗くくらいですが、またいつか壁に当たったり迷いが生じるようなことがあれば、かつて歩いた西口の街並みを抜けて、自由学園明日館を眺めにいこうかと思っています。

*1:そのうち5分すら耐えられなくなって弁当を外で食べるようになったのですが、雨の日などは東京芸術劇場の地下ホールでホームレスのおじさんと並んで食べていました。一度公園で食べようとしたとき箸を忘れたことに気づき、困ったあげく植込みの木の枝を折って箸として食べたことがあって、その時ほど惨めな気持ちになったことはありません。