布団あります まくらことば活動日記

歌ものロック/ポップスバンド、まくらことばのブログです。

穴を掘り進める

おはようございます、サトー@mkrktbです。

あ、明日は祝日なんですね、不思議な気分で月曜日の朝を迎えているのはそのせいなんでしょう。

 

あのね、本来であればそろそろライブのことに全力投球しないといけないんですよ、ちょうど今日であと1か月に迫ったというのに!

5/28はわれわれの企画イベントですからね、共演の山田さんとsheepさんにも「出てよかった!」と思っていただかなければ意味ないし、そのためにはお客さんに楽しんでいただかないことには何も始まらないし、そんでそのためには入念な準備が必要だし……。

なのに我々は、今だアルバム制作に追われておりまして、なかなかライブのことに頭を切り替えることができておりません。

 

や、追われてるというとなんか語弊があるなぁ。

そう、正確にいえばサトーの野郎の歌入れがなかなかOK水準まで至らないからで、いろいろ手は打っているものの、現時点で「これなら!」というテイクが1曲も出せていない現実があるんです。

メンバーはじめ周囲の方にも聴いてもらってかなりためになるアドバイスももらったんですが、それを実行できない自分の情けないことよ……。

なんだろう、うーん、ここ数日「よし、わかったぞ!」と覚醒したかと思いきや、いざやってみると「やっぱりできん」の繰り返しでありまして、ちょっとずつ目指すところに近づいているとは思うんですが、なかなか納得のいくものができない。

ちょっと具体的な話をしますと、ヘッドホンで聴く分にはいいんですよ、なかなか。

でもオープンエアで聴くともうダメダメなの、声量はないし、ピッチはズレてるし、音量にムラがありすぎるし。

マイクで録るパートに関してはヘッドホンを使わざるを得ない(音がかぶるので)のですが、ヘッドホンとオープンエアの聴こえの差をなかなか埋めることができない、それが今陥っている難儀です。

 

まったく「何いっちょまえのこと言ってるの?」という話で、そう、別に私がここで上手く歌えようが歌えまいが世の中的にはどうでもいいことなんだからと開き直っちまえばいいんですが……。

でもね、やっぱりどうでもよくはないの。

それはね、まくらことばは具体的に伝えたいことがあって、伝えたい人がいてやってるバンドなので、それがどんなスモールサークルであれ、そこが達成できないとやってる意味がないのよ。

これって身内ノリだとは全然思ってなくて、間近にいる人に伝わらないのになんで不特定多数の人に伝わるんだよって思いがあって。

僕が聴いてきた音楽は、たとえば1960年代のリバプールの不良達だったり、1980年代のマンチェスターの陰鬱なオカマ野郎がやってたりしたんだけど、それが1990年代の日本の田舎のガキだった自分に、もう名指しで超具体的に伝わってきてたからね、「お前はどうなんだ」って。

それってやっぱり彼らがマスを相手にしてたんじゃなくて、もう「この人に、このメッセージを」って感じでやっていたからじゃないかと思うんです。

 

大江健三郎の『個人的な体験』という作品で、主人公の鳥(バード)がこんなことを言います。ちょっと長いけど引用。

個人的な体験のうちにも、ひとりでその体験の洞穴をどんどん進んでゆくと、やがては、人間一般にかかわる真実の展望のひらける抜け道に出ることのできる、そういう体験はある筈だろう? その場合、とにかく苦しむ個人には苦しみのあとの果実があたえられるわけだ。暗闇の洞穴で辛い思いはしたが地表に出ることができると同時に金貨の袋も手にいれていたトム・ソウヤーみたいに! ところがいまぼくの個人的に体験している苦役ときたら、他のあらゆる人間の世界から孤立している自分ひとりの竪穴を、絶望的に深く掘り進んでいることにすぎない。おなじ暗闇の穴ぼこで苦しい汗を流しても、ぼくの体験からは、人間的な意味のひとかけらも生れない。不毛で恥かしいだけの厭らしい穴掘りだ、ぼくのトム・ソウヤーはやたらに深い竪穴の底で気が狂ってしまうのかもしれないや

この小説においてバードの「不毛で恥かしいだけの厭らしい穴掘り」は、最終的には「人間一般にかかわる真実の展望のひらける抜け道」に至るのですが、現時点で竪穴を掘り進めている人間にはとてもそれを信じることができないバードのデスパレートな気分が、今の私には少しわかるような気がします。

 

うーん、いや、でもやっぱり、この小説を読んだ人はたいがいそう感じると思うんだけど、バードってすごく独りよがりなんですよ、だから今の私はバードとは違う。

私は確かに「これホントに抜け道に通じてるのか?」と不安になるような竪穴を掘り進めているんだけど、決してこれは「自分ひとりの竪穴」ではないので。

竪穴に水分とか食料とか酸素を供給してくれる仲間がいて、常に穴をのぞき込んで見守ってくれていることは、ちゃんとわかってます。

 

だからね、(数日前から繰り返してますが)もうちょっと頑張れる。

うん、引き続きやります。