布団あります まくらことば活動日記

歌ものロック/ポップスバンド、まくらことばのブログです。

渋谷の残影

こんにちは、サトー@まくらことばです。

 

世はまさに、花粉飛散の全盛期を迎えております。

私は昨日から鼻が完全崩壊、とめどない鼻水に「脳ミソが溶けて出てんじゃね?」と思うくらい朦朧とした意識のなか、繰り返される鼻かみでひりひりと鈍痛をたくわえる鼻回りに苦しんでおります。

おまけに鼻がまったく詰まった状態で寝るもんだからおのずと口呼吸になり、朝起きれば喉が痛いという始末。

レディオヘッドの「プルーブ・ユアセルフ」という曲には「I'm better off dead」というリフレインがありますが、この季節、私はこの歌を脳内で再生していることが多いのです。

 

ということで昨夜もレコーディングをやろうと納戸スタジオに入るも、ひたすら鼻をかんでばかりで作業が全く進まないため、早々に見切りをつけて音楽でも聴いて寝ちまおうとiTunesを立ち上げました。

それで昨夜、なんか無性に聴きたくなったのがサテライト・ラヴァーズ。

私が持っているのは1994年発表の1stアルバム「MUSIC」だけなのですが、これはいわゆる渋谷系サウンドの典型であり、ジャパニーズ・フリーソウルの傑作アルバムです。

f:id:makurakotova:20140326083309j:plain

残念ながらこの盤からようつべにアップされている曲がないので音は聴けないのですが、特に2曲目のシングルカットもされた「with you」という曲、これは名曲だと思います。

 

サテライト・ラヴァーズは、渋谷系の元祖的存在であるラブ・タンバリンズの影響が色濃く、また当時コンピ盤が発売されてクラブ界隈で盛り上がっていたフリーソウルレアグルーヴの流れにあるバンドで、この1stは渋谷系文化の発信源であるWAVEのレーベルから発売されていました。

当時はインディレーベル、それもいわゆる「会社インディ」の全盛期で、前出ラブタンの所属していたクルーエル・レコーズやエスカレーター・レコーズなんかが有名ですが、渋谷系総本山のWAVEが自身のレーベルからリリースしたのですから、「MUSIC」に対する関係者の期待は大きなものがあったのだと思います。

wikiの記事によると、ボーカル担当でソングライターの池内美加さんはなんと出身も渋谷区とのこと、まごうかたなき渋谷系なわけですね。

私は96年ごろ「ロッキンオンジャパン」の白黒ページで、当時は確かソニーにメジャー移籍していたと思うのですが、インタビュー記事を読んだのを覚えていて、池内さんはそれこそ広告代理店とか業界っぽいところでお仕事をされながらミュージシャンをやっている、そんな感じじゃなかったかと。

 

この「MUSIC」、今聞いても色褪せていないのは、絶対的にかっこいいオシャレグルーヴサウンドに負うところも大きいのですが、なんといっても曲のそのもの良さが光っているように思います。

歌詞はニューミュージックの流れにあるような雰囲気重視の言葉選びなのですが、不思議と絵空事感はなく、都会的でありながらしっかりと体温が感じられるようで、この辺は生粋の都会人である池内さんならではの表現なのだと思います。

グルーヴィーであるといっても、ブイブイとベースが唸ってコンプかかりまくったブレイクビーツが突っ込んでくるといった仕上がりではなく、抑制の効いたグルーブ、まさにレアグルーヴとしかいいようのない和製ソウルで、この辺にも都会的センスを感じさせるなぁ、私は「ブルーアイドソウル」の渋谷流解釈なのかなと思っています。

 

この後渋谷系は、オザケンを筆頭にしたメジャー化、サニーデイサービスが先導したフォーキーな流れなど多様化の様相を見せ、音の傾向ではなくミュージシャンの姿勢を表す言葉に変質していきます。

その後いわゆる“98世代”の登場をもって本格的なオルタナティブロックの土壌がこの国に出現するわけですが、この滋養となったのが渋谷系であると私は見ています。

要するに、音楽シーンの隆盛とは裏腹に、ラブタン的なサウンド傾向としての渋谷系はどんどん後景に追いやられていく、その中で渋谷系サウンドの典型として刻まれたのがサテライトラヴァーズ「MUSIC」であり、今ではある種記念碑的なレコードになっているような気がします。

小西康陽氏はかつて、色とりどりのレコード屋の袋を下げて闊歩する若者があふれる90年代中盤の渋谷の街を、フラワームーブメントの時のサンフランシスコになぞらえて「ピースフルな光景」と評していましたが、まさにその時間と空気感がそのままパッケージされたレコードのひとつが、この「MUSIC」なのではないかと。

 

ミュージシャンは往々にして、「時代を超えた名盤を作りたい」と思うものですが、「不易流行」の「流行」だけを切り取ったように思えた「MUSIC」が、20年の時を経て今も聴く者を魅了するレコードであることを思うにつけ、流行りモノであれなんであれ、どれだけリアリティをもって作ったかが作品の普遍性を決定するのだなぁと実感するのです。

普遍性って歴史が証明することであって、目指すものとはちょっと違うんだなと。

 

そう、もう20年も昔のことなんだよね。

時の風雪に晒された当時のレコードが、2014年の今どう聴こえるか、渋谷系を聴き返してみるのもいいかもしれないな、そんなことを思った春の夜でした。