ブルーにこんがらがって
おはようございます、サトー@まくらことばです。
昨日の午前中は嵐のような突風と雨が降りつけびっくりしましたが、急速なその後の回復を経て今朝はいつもどおりのしんとした冷え込みとなっています。
とはいえ、いささか性急ではあったものの、昨日の雨が街に湿り気を運んできたことには間違いなく、少しだけやさしい空気に包まれた東京の朝は、師走の気ぜわしさも和ませてくれるようです。
さて、そろそろ忘年会シーズンということもあり、みなさん、今年1年を振り返ったり、来年の目標を考えたりすることもあるかと思います。
まくらことばの目標、いや当然やるべきことの内容は、先日の記事でお伝えした「中期経営計画β版」にあるとおりですが、私はこの計画にとりかかるにあたって、できるだけバンドに専念すべく、それ以外のことについては、少なくとも来年5月のレコ発企画ライブまでは波風を立てないようにしておこうと思っていました。
しかし人生、思い通りになったためしがないのは経験が教えてくれることで。
まだ具体的に何も決まっていないしお伝えすべき動きもないので思わせぶりにならざるを得ないのですが、いま私の目の前には、大きな波が迫ってきているような気がします。
波が来た時、直面した人間が取り得る選択肢は2つ――退避してやりすごすか、乗りこなしてみせるか、もちろんどちらがベストなのかはその時々によって変わってくるのですが、どうやら今回は、波に乗ってしまうのが正解のような気がしてならない。
というのもこの波は、ぱっと見まくらことばとは関係のないように見えるのですが、よくよく観察してみると、昨年11月の嵐の夜、乗ることに決めたあの波と同じ発生源をもつものではないかと思えるのです。
先日のライブ以降とくに感じることなのですが、まくらことばはもはや、みんなの思いみたいなものの集合体であって、私たちメンバーだけのものではない。*1
もちろん経営計画は粛々と進めていきますし、目の前のタスクに対し手を動かすことを止める気は一切ないのですが、自分たちが生み出すものがどんなものなのか、そこはもはやコントロール不能の領域にあると思っています。
私がこのバンドに可能性を感じるのは、この「自分の手に負えなさ」があるからなんです。
まくらことばは、ここで出会った人たちのストーリーが音楽にどんどん織り込まれていって、さらに新しい物語が生まれる磁場のようなバンドであって、決して、メンバーの意思のもとに自分たちの音楽像を実現する場だとは思っていません。
ということは当然、サトー個人もまくらことばに影響を受ける一人なわけで*2、このバンドに関わってしまった以上、私の意思などゆうに超越した何かに身を委ねる以外に、自分のやるべきことは見当たりません。
そして私は、捨て鉢な気分でこんなことを言っているのではなくて。
まくらことばにまつわるストーリーにはいろんなものがありますが、どれも「善なるもの」であることは間違いありません。
この世界を少しでも楽しくしたい、わくわくする場所にしたい、感動したり笑ったりしていたい、そんな思いが集まってこの磁場を作り上げている限り、ここから「邪悪なもの」が生まれて来ることはあり得ない。
だから、あの嵐の夜に端を発する波であるならば、たとえ想定外であれ、私はそれを歓迎しようと思うんです。
私は今までも、自分の人生が自分の思い通りになるなんて思ったことはありませんが*3、今また私の目の前に立ちあがった波と対峙して、「こりゃまたやっかいなことになったなぁ」とか「おれどうなるんだろうか」などと思いつつ、少し先の自分がどうなっているのか、希望を胸に秘めて波に乗りこんでいこうと思います。
ボブ・ディランの最高傑作とも言われる1975年のアルバム『血の轍』には、60年代、プロテストソングの旗手として神格化されたディランの姿はありません。
直截的なメッセージはどこにも見当たらず*4、架空ともリアルともつかない様々な物語が、表情豊かなバンドサウンドにのせて奏でられます。
中でもシングルカットされた「ブルーにこんがらがって」は、まさにこの時期のディランを代表する1曲といえます。
“On the Road”な主人公の視点がめまぐるしく変化しながら切り取っていくストーリーは、一見ばらばらで散文的な印象を与えますが、聴きこむと不思議と一つの像を結ぶような、まさにこのころのディランが目指していた「絵画のような音楽」ではないかと思います。
この曲の主人公はまさに流浪を生きるひとなのですが、ディランの言葉は彼が身を委ねた真実の瞬間を確かに描いており、思い通りにならない人生を言祝ぐような演奏が添えられています。
私は“On the Road”に生きるほど勇気のある人間ではありませんが、それでもこの曲が大好きなのは、次の一節に負うところが大きいかもしれません。
The only thing I knew how to do
Was to keep on keeping on like a bird that flew
Tangled up in blue.
おれが知っていることといえば
続けることを続けるだけだ 鳥が飛ぶように
ブルーにこんがらがって
私も、思い通りになんてなりっこないブルーにこんがらがった現実と向き合いながら、続けることをしっかり続けていきたいと思います、まくらことばの磁場に引き寄せられた一人として。