本の話
こんにちは、まくらことばのサトーです。
いやぁ、今日も暑いですね。
なんですが8月後半って、暑さは一向に衰える様子がないというのに、確実に日が短くなっていく時期で。
広島出身の私は、夏は夜7時すぎても明るい環境で育ちましたので、この関東の日の短さってどうにも気が滅入るんですよね……。
さて、昨日漫画の話をしましたので、今日はちょっと本の話をさせてください。
夏休みの1冊ってのもあるし、いいでしょ。
まずは私が人生レベルで好きな本・大切な本を5冊並べてみました。
①大江健三郎「日常生活の冒険」
私、本格的に読書を始めたのって20歳くらいと結構遅いんですが、そのとき最初に夢中になった作家が大江健三郎で。
なんか最近は“プロ市民のおじいさん”って感じでぱっとしないし、ノーベル賞ももらったけど代表作(と言われる)「万延元年のフットボール」は言われるほど面白くないし、「万延~」だけ読んでわけわからんかったからあとは知らん、みたいな方も多いと思います。
しかし!
大江健三郎の特に20代のころの作品って、ほんと洒落にならんくらい凄いです。
サブカル界隈で「ヤバいよね」って言われてる物件の数百倍、それこそヤバいですから。
「性的人間」「われらの時代」「セブンティーン」そして「個人的な体験」……。
もう名前を挙げるだけで、体の奥でボイラーが炊かれてるような気分になります。
20代の大江健三郎って、文学史的評価は知りませんが、本当に何かに憑かれていたとしか思えないくらい、半端ない喚起力をもった作品を書いてたんですね。
その中でも超好きなのが「日常生活の冒険」。
これは義兄の伊丹十三をモデルにした小説といわれていますが、とにかくべらぼうに面白い。
饒舌な文体は安易にセンチメンタルに逃げ込むことを許さず、とにかくこれでもかこれでもかと読む者の心に燃料をぶっかけてくるような小説です。
この作品を読んで感じることって、まったくオリジナルというかこの作品を読むことでしか味わえない領域なんで、とにかく読んで下さいとしか言いようがないんですよ、はい。
②大江健三郎「洪水はわが魂に及び」
これは70年代に発表された長編で、神がかり期終了後の作品なんですが、私は大江の最高傑作を挙げよといわれれば、迷うことなくこの作品を推しますね。
この作品は60年代後半から70年代初めにかけて、現実に日本の若者を夢中にさせ、そして自滅していった政治的な季節に触発されて書かれたとされているもので、実際の事件を予言的に描いていたことでも知られるんですが、そんなことはどうでもいいんです。
とにかく小説の力ってこんなに凄いんだということを、もう嫌というくらい思い知らされる作品で、私はこれを電車内で読み切ったのですが、思わずラストで「うわあっ!」って声出してしまったんです。
大江健三郎の悪い癖で、冒頭の記述が重いというかとっつきにくいのを我慢すれば、かなりの長編ですが信じられないくらいすらすら読めます、もうエンタメって言っていいくらいに。
ただ、やっぱり大作なんで、これから大江を読んでみたいという人には「個人的な体験」から入られることをお勧めします。
③オーデン詩集
これはですね、①のなかでたびたびオーデンの「見るまえに跳べ」という詩が引用されていて、大江健三郎の座右の書だということを知ってさんざん探し回り、神保町の田村書店で当時の自分にとってはかなりの金額を出して買った1冊で、内容もさることながら、モノとしても私の宝物的な一冊です。
「見るまえに跳べ」っていうタイトルだけは、フォークシンガーの岡林信康が作品タイトルに使ったりして独り歩きしているのですが、オリジナルはこれだと思います(60年代当時、信じられないことですが大江は流行作家で若者の間ではかなり読まれていたため、おそらく岡林も①で知ったのでは)。
「見るまえに跳べ」のほかにも、「小説家」とか「めでたし、めでたし」とか、暗誦できるくらいに大好きな詩が何篇も入っています。
当代随一の人気作家、村上春樹の作品では、私はこの処女作が一番好きで、何回読み返したかわかりません。
私ねぇ、やっぱり田舎者だからシティボーイ的な文化にすんごく憧れるというか、どんなに頑張っても手の届かないものとしてあって、シティボーイ文化の総本山がこの小説だと思うんですよね。
もう冒頭から言葉の一つひとつが選び抜かれた感じで、小説というよりは散文詩に近い印象を抱きます。
一番好きなのは、鼠が「何故ビールなんて飲む?」と主人公に訊かれて、「ビールの良いところはね、全部小便になって出ちまうところだね。ワン・アウト一塁ダブル・プレー、何も残りゃしない。」と答える会話。
洒脱なんだけどちょっとワイルドでもあって、板についてるこの感じ!
ここを読むたびにもうなんか「うわー」という気分になるんです。
⑤内田樹「おじさん的思考」
内田先生の本はほとんど読んでいますが、最初に読んで内田ファンになったのがこの1冊で、内容からいってもやっぱり最高傑作なんじゃないかなと思いますね。
この本を読んで思ったことは、「なんでこの人、今まで世に出てなかったんだろう」という素朴な疑問で、それはこの本に、まさに自分が読みたいと思っていたけどそれまで与えられていなかったテキストが詰まっていたからなんです。
最近はちょっと粗製濫造ぎみの内田先生ですが、やっぱり今も一番面白い書き手であることには変わりないと思います。
ということでサトーの5冊を挙げてみましたが、わがメンバーは(私の知る限りでは)こんな本が好きみたいですよ(とりあえず私の手持ちのものなので、「翻訳はそれじゃないよバカ」とか苦情は改めてお受けします)。
……どっちがゆさくんでどっちが吹雪様なのか、言わなくてもわかりますよね!